さて、約1年ぶりのブログ更新である。
特に今年はコロナ禍を筆頭に目まぐるしく社会情勢が変化した一年間であったが、
自転車関連における私事の最大のトピックとしては“電動コンポ”の導入である。
導入するに至った経緯については後ほどまとめるが、
個人的には『プロダクトとしては良いものであるが、私の使い方においては巷で絶賛されているほどの感動は無い』というのが正直な感想であることを、最初に述べておきたい。
その上で本記事が現在、電動コンポの導入について悩んでる方への一助になればと思う。
1.導入理由
私は自転車を5台所有しており、そのうちの1台がケーブル内装タイプのカーボンロードバイクである。で、以前からこのフレームのリア変速に対して不満というか、他のケーブル外装式の自転車と比較してどうにもストレスを感じていた。いくらケーブルの種類や組付けを見直したところで、ロー側に入るのが3テンポ程度遅れる→ケーブルの張りを強める→トップ側に入りづらくなる→張りを弱める→ロー側に…というループが解消できなかったのである。当然、他の自転車は全く問題無くスパスパと心地よく変速してくれる。
最初はエンドの曲がりやプーリーの摩耗を疑い交換したものの改善が見られず。勿論、かくいう私も自転車の整備や組付けに関しては全くのド素人。ならばとシフトケーブルの交換を腕に定評のあるショップに依頼し事態の改善を試みたのであるが、結果は変わらずであった。再度そのショップに行った際に相談したところ、「ケーブル内装フレーム、特にチェーンステーの真後ろからケーブルが飛び出すタイプのフレームでシャドータイプのRDを使用すると、アールがキツくなりすぎるため外装式に比べると変速性能が落ちてしまう可能性がある」との見解であった。となると、残る手段は電動化しかない。
しかしロードバイク業界は既にディスクブレーキへ移行しつつあるタイミング。これ以上リムブレーキ車にあまり投資をするつもりは無かったために我慢して乗り続けようかとも思っていたのだが、やはりリア変速に対するストレスは日に日に増すばかり。そろそろDURA-ACEを筆頭にSHIMANOコンポのモデルチェンジの時期がきているということもあって大変に悩んだが、誕生日プレゼントであったり未使用品を格安で譲っていただいたりと沢山の方のご協力もあり、結局導入することと相成った。皆様には改めてお礼を申し上げたい。ありがとうございました。
リアエンドの真後ろからケーブルが出てくるフレームとシャドーリアディレイラーを組み合わせると、アウターケーブルのRがどうしてもキツくなる
さて、Di2化を果たしてから600kmブルベや200km山岳ブルベにも投入し、走行距離が1000kmを超えたので以下にメリットとデメリットを挙げていくこととする。なお、私自身レースには参加しておらず、専らブルベ等のロングライドや週末ライドを楽しむ一般的なサイクリストである。そのため、表彰台を狙う本格的なレース志向の方々とは感想が大きく異なる可能性が極めて高い点については、留意していただきたい。
2.メリット
【1】変速性能が改善された
導入に至った最大の動機である変速性能の改善であるが、これは目論見通り達成することができた。他に所有しているワイヤー外装式の自転車と同様の、スパスパと変速が決まる心地良いフィーリングを手に入れることができ、ストレスから解放されることとなった。まさにケーブルの取り回しに左右されないフライバイワイヤ方式の面目躍如といったところ。またこれは同時に、『組付け時に腕やノウハウが要求されるワイヤー式とは違い、誰でもほぼ同じ変速精度が出せる』ということでもある(ディレイラー本体の組付け等完全に0ではないが、その点はワイヤー式も同じである)。
【2】サイクルコンピューターとの同期
去年のブログでも記事にした通り、現在私はGARMINのEDGE530をメインサイコンとして運用している。コンポを電動化する際に“ワイヤレスユニット”を導入することにより、
①現在使用しているギアの組み合わせを表示
②レバー上部の隠しスイッチを使用して表示画面の変更やラップのスタート/ストップ操作
③変速回数の記録
を行うことが可能となった。特に②は是非とも使いたい機能であったため、当初より隠しスイッチが搭載されていないST-6770とST-6870は選択肢から外していた。物理キーであるEDGE530の場合、冬場の厚めのグローブ着用時でも特に操作に不便は感じていなかったが、ダンシング中に手軽に表示画面が変更可能になったことはやはり便利である。タッチスクリーン式のEDGE800/1000シリーズを使用されている方であれば冬場の厚手のグローブ着用時や、雨天時でスクリーンロック機能をオンにしているシチュエーションなど、よりメリットが大きくなると思われる。
ちなみにEDGE530と同期させると、ギアがアウター×トップorインナー×ローに入ると、『ピッ』とそのことを知らせる効果音が鳴る。更に“これ以上は重く/軽くできない”操作を行おうとすると、同様に『ピッ』音が鳴る。参考までに。
なお、SHIMANOのマニュアルには「ワイヤレスユニットは外に出ているブレーキケーブルに沿わせること」という旨の記載があるが、実際はダウンチューブ等のフレームに内装しても問題無く使用できている。外観もスッキリする上に(まず無いと思われるが)浸水等のトラブルを考慮すると、特にデメリットも見当たらないため内装してしまった方が良いだろう。
レバー上部の隠しスイッチ。ここにシフトアップ/ダウンの変速操作を割り当てる事も可能
操作アクションと機能の割り当てはサイコン側で設定する。左右それぞれのレバーについて設定可能だ
【3】リリースレバーの空打ちが発生しなくなる
ワイヤー式のSTIレバーの場合、時折リリースレバーの空打ち(リリースレバーを押しても変速動作が発生しない)が発生していたが、電動コンポの場合は当然このトラブルは発生しない。ロングライドやサイクリング等であれば再度変速操作を行えば済む話であるが、レース中のゴールスプリント直前でこれが発生すると、レース結果に重篤な影響を及ぼす可能性がある。
【4】ハンドル周りが軽くなる
Di2化を図る以前に使用していたSTIレバーはST-9001(365g)であるが、ST-9070(237g)への変更に伴い約130gハンドル周りから重量が削減されることとなった。流石にこれだけの重量差があるとダンシングでハンドルを振る際の挙動が大きく変わることになる。また、ハンドルとフレームを繋ぐワイヤーがブレーキケーブル1本のみとなるため(ワイヤー変速式の場合、シフトケーブルが更に2本追加)、ダウンヒルの際のコーナリングでも狙ったラインをトレースしやすくなった(というより、これが本来意図されたフレームの性能なのであろう)。
油圧ディスクブレーキシステムのロードバイクの場合、電動レバーの形状はリムブレーキ用のレバーとほぼ同一の非常にコンパクトな形状となる上、重量もワイヤー式より約140gの軽量化も図れるため、積極的に電動化を検討する価値はある。
【5】シフトインナーケーブルにまつわるトラブルからの解放
SHIMANO製STIレバーの場合、特に9000世代以降の製品は“レバー内部でシフトインナーケーブルが断線する”というトラブルをよく目にするようになった。実際、私も一度これが原因でブルベをDNFしている。言ってしまえば爆弾のようなものである。私の場合はリア変速を人より多用しがちなライドスタイルであるため(約2000回/100km)、2000kmおきに交換していた。
しかし電動化を行えば、この手のトラブルに見舞われる心配は無くなる。キャノンボールといった絶対に失敗したくない場面でも安心して持ち出せる意義は大きい。
【6】セッティングの再現性の高さ
ワイヤレスユニットを用いてスマホと同期させていれば、SHIMANOがリリースしている無料アプリ『E-tube』を利用することが可能である。このアプリケーションは各パーツのファームアップデートや変速動作の微調整等がPCを用いずとも手軽に行えるため、大変便利である。
特に前後ディレイラーのセッティング(機械式で表現するところの“ワイヤーの張り加減”)を数字として視覚的に確認可能であるため、一度セッティングを行えばその数字をスクショに撮る等でセーブしておくことで、次回の部品交換時等でも再現が容易となる。様子を見ながらワイヤーの張り具合を調整するというアナログなワイヤー式との差はここにもある。
専用アプリ“E-TUBE”の設定画面。このように前後ディレイラーの調整具合を数値として管理できる
【7】変速スイッチの増設
私は特に使用していないが、“スプリンタースイッチ”と“サテライトスイッチ”と呼ばれる増設用変速スイッチのオプションも用意されている。これらを使えばスプリント時等で下ハンドルを握った時により変速操作が行い易くなったり、ハンドル上面やTT/TRIバイクのブルホーンバーの先端を握ったままの状態でも変速操作が可能となる。特にトライアスロンレースに積極的に参加している知人いわく「レース戦略が大きく変わるため、Di2の採用はほぼ必須」とのことである。
【8】オートトリム機能
チェーンがFDに接触しないようにFDの位置を微調整するトリム調整操作がDi2では不要となる。リアのギア位置に応じてFDの位置が勝手に移動するためである。個人的には今までこのトリム操作が煩わしいと感じたことは無いし、Di2導入後も「トリム操作をしなくて済むと、こんなにストレスフリーなんだ!」等と思ったことは無い。しかし、「走りに集中できるようになった」と感じた人の話は多く聞く上、操作しなくて済むのであればそれに越したことは無いのは間違いない。
以上が導入して実感したメリットである。しかしワイヤー式の上位互換と思われがちな電動コンポであるが、実は無視できないデメリットもそれなりに多い。以下よりそれらデメリットについて述べていく。
2.デメリット
【1】導入コストの高さ
導入にあたっての費用がとにかく高い。なんと言ってもこれに尽きる。前後変速機の価格の高さはともかく、それに加えて以下の小物類の追加購入が発生する。そしてそれらがいちいち高いのだ。
「ケーブルの交換費用が無くなるのであれば、いつか元は取れるのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれないが、2020年12月現在、R8000シリーズのワイヤー式と電動式の価格差はコンポ代3万円+上記小物代5万円で計約8万円。R9100の場合はコンポ代だけで約92,000円の差となる。
一方で私の自転車の場合、年間にかかるシフトケーブルの価格(インナーケーブルを半年に1回、アウターケーブルを年に1回交換すると仮定した場合)はざっくり約5,000円。仮に組付けをショップに依頼するとして工賃込みで費用が約10,000円だとすると、逆転するのに8年必要という計算になる(DURA-ACEの場合は14年)。
このレベルであれば先にディレイラーやレバーそのものが故障する可能性が高そうであるが、あくまでこれは年間5000~6000km程度の私の自転車の場合。仮にこれが年間1~20000km以上走るとなると、また話は変わってくる(ワイヤーだけでなく、チェーンやタイヤ等の消耗品費も凄そうだが…)。自身の年間走行距離やケーブルの交換頻度・費用を計算した上で判断して欲しい。
【2】バッテリー
電気部品ということで、言うまでもなくバッテリー管理が必要となる。公称ランライムは満充電で1000~1200kmとなっており、私の使用方法ではほぼこの通りとなる(殆ど変速操作をしない人は倍以上保つとのことだが…その場合、いよいよ電動コンポにする必要性はあるのだろうか?)。メリット【5】で取り上げた“ケーブルワイヤートラブル”とはまた別の、“電池切れ”という爆弾を抱えることとなるわけだ。バッテリーの充電を忘れるとどうしようもないことは勿論、ありがちなトラブルは『壁等に立てかけた際に変速スイッチが押されっぱなしになることで、バッテリーが消耗する』というものである。保管方法にも気を遣う必要が生じるわけだ。
また、1000km以上のブルベへの参加や日本一周のような長期間のツーリングの際には給電も課題となる。ジャンクションAから給電を行うわけであるが、この給電ポートは一般的なmicro・miniUSBやType-Cといった汎用品ではなく、専用の端子形状となっている(専用充電器にmicroUSBを接続する)。
このため、持ち運ぶ荷物が増えるといったデメリットも発生する。
ジャンクションAの給電口。専用の形状だ
ドングルも兼ねる専用充電器。これに更にmicri USBを接続して充電を行う
これらのトラブルを未然に防ぐため、正確なバッテリー残量を①対応するサイコンに表示させる②ディスプレイユニットを使用する…のどちらかの方法で確認することとなるが、①を選択する場合はサイコンの表示項目を一つ潰すことになる。ハンドルのスペースに余裕があったり形状に問題が無いのであれば、極力ディスプレイユニットを採用したい(費用もジャンクションA+ワイヤレスユニットの組み合わせより安く抑えることが可能)。
私のEDGE530のメイン画面。『Di2バッテリー残量』の箇所は導入前『獲得標高』を表示させていた
【3】電装品のトラブル
【2】に引き続いて爆弾ネタその2である。私はまだ見舞われたことは無いが、バッテリー切れ以外にも何らかの電装品のトラブル(特にジャンクション周り)が発生し、動作しなくなるケースもあると聞く。ワイヤー式システムであれば、ディレイラーの可動域の調整やタイラップ・針金等を駆使して任意の軽めのギアで走行を継続することもやってできなくはないが、電動コンポの場合はそういった対処も基本的には不可能である。また、自転車屋に駆け込むことさえできれば、ワイヤー式の場合は部品の在庫が手に入る可能性が高く、ケーブルの内装・外装問わず比較的速やかに復旧できることに対し、電動コンポの場合は(特にケーブル内装式)そうはいかない可能性が高い。特にケーブル内装式で圧入式BBを採用しているフレームの場合、仮にショップに駆け込んでもBBの在庫が無ければ詰みである(一度取り外したBBの再利用は基本的に不可のため)。少しでも走行継続確率を上げるためにもTOKENやWISHBONEといったスレッドフィットタイプBBを採用しておくことを強く推奨しておく。
私が使用しているTOKEN“NINJA”。WISHBONEなども有名だ
【4】インナー×トップから2段は使用不可(アウター52以下の場合)
Di2特有の問題点というか仕様なのであるが、
・アウターの歯数設定を52T以下にする
・バッテリーのファームウェアを最新版にする
の両条件を満たすと、インナー×トップorトップから2段目というギアの組み合わせは使用不可となっている。例えば、アウター×トップでダウンヒル中に急勾配の登り返しに差し掛かったタイミングで、“まずフロントをインナーに落としてから徐々にリアのギアを下げていく”ということができない。フロント側のシフトダウン操作を行うとフロント側のギアは変わらず、リアのギアが2段分ローギアに移動する。この場合については単にリアの方から先にギアを下げていけば済む話ではあるが、既にインナーに入っている状態でトップ側2段目にギアを上げようとした場合、何も起こらないのである。先にフロントギアをアウターに上げておく必要性がある。このように融通が利かないという点では明確にマイナスである。
以上がワイヤー変速システムと比較した際のデメリットである。
人や用途によってはどれも大した問題にならない項目かもしれないが、検討材料として欲しい。
以降は私にとってメリットともデメリットとも思わなかった点について挙げていく。
3.その他
【1】シンクロシフト
ここでは詳しく解説はしないが、Di2にはギアのつながりを有効に使用することが可能な『シンクロシフト』と『セミシンクロシフト」という2モードが搭載されている。私も最初は便利そうだという理由で設定していたが、普段走行しているようなヒルクライムコースやアップダウンが連続するようなシチュエーションでは逆に不便に感じたため、すぐに機能をオフにしてしまった。私の周りでも同様に設定を切っている人が多いが、やはり便利だということで利用している人もそれなりにいる。
走るコースやシチュエーションにあわせて積極的に切替えて運用することができれば、便利な機能なのかもしれない。
【2】配線作業
Di2対応のケーブル内装式フレームの配線についてであるが、結論から述べると「難易度・作業性共にワイヤー式と大差無し」というのが率直な感想であった。事前に「ワイヤーの交換作業より大変」「いや、ワイヤーより楽だ」という両方の意見を聞いていたが、個人的には大差無いというのが正直なところ。ただし、圧入式BBを採用しているフレームの場合、何らかの方法でBBを取り外す必要性があることは注意。この観点からも、やはりDi2の導入に際してはTOKENやWISH-BONEといったスレッドフィットタイプBBを用いることが望ましい。
なお、上記はあくまで“Di2対応のケーブル内装式フレーム”の場合である。そうではないケーブル外出し式の場合、各ケーブル長の選択がシビアになったり、配線作業やバッテリーの設置等の難易度がより高くなる可能性はある。
【3】軽い力で変速操作が可能
これも良く言われているファクターであるが、個人的には特にメリットとは思わなかった。というよりワイヤー式でも「変速レバーを操作するのは疲れるなぁ」だとか「流石に500kmも走ってきたら、変速するのも一苦労だぜ」などと思ったことが一度も無いのだ。手首が疲れるレベルで変速操作が重いようであれば、まずはきちんとしたショップにワイヤーの交換や調整を依頼するべきである。
ただし、これもあくまで私個人の実感ないしは使用方法においては、である。過酷なレースの終盤ともなってくると、また感想は変わってくるかもしれない。手の小さな方であれば、メインレバーを操作するにも苦労する…という話は聞く。いずれにせよ、電動化すればいわゆる“変速疲れ”を気にする必要が無くなるのは間違いない。
【4】変速具合の微調整
メリット【6】で挙げた内容とリンクするが、初導入時やRD・スプロケ等のパーツを変更、あるいは新フレームへの載せ替えなどをした場合、完璧にセッティングが行えていれば何も問題は無い。しかし、実際に外を走り出してみると微調整が必要になるケースは多い。この時、ワイヤー式であれば信号待ち等でディレイラーのアジャスターを弄ることで手軽に微調整が可能であるが、電動式だとそうはいかない。専用アプリのE-TUBEを起動・同期させるかジャンクションAを操作して調整モードにする必要があり、ワイヤー式に比べて大変手間がかかる。慣れれば乗車しながらの調整も可能とは聞くが、やはりワイヤー式ほど手軽に調整できないことは確かだ。
…と、これだけを書くと単にデメリットでしかないのだが、一方で電動式は“一度調整が済んでしまえば、基本的に再調整は不要”というメリットがある。ワイヤーの伸びに伴う再調整が不要となるためだ。そのため、「ここ大一番の本番で初投入!」ということは決してせず、必ず試走を行い事前確認・調整をしっかりしておくこと。(そもそもDi2に限らず、初物をいきなり実践投入するべきではない)
【5】変速スイッチ
最初は随所で「厚手のグローブをしていると、シフトアップとダウンのスイッチを区別することが難しくなりそう」という話をあちこちで聞いていたため私も懸念していたのであるが、これについては完全に杞憂であった。それぞれの変速スイッチの間には明確に段差が設けられており、真冬用のグローブ着用時でも押し間違えることはまず無い。心配は無用である。
シフトレバーはそれぞれの間に明確に段差が設けられている
【5】多段変速/変速速度の設定
これもDi2ならではの機能として、リアの変速速度を5段階で設定することが可能である。SHIMANOの公式からも説明がある通り、速度を上げれば変速時のレスポンスも良くなるが、変速スイッチの長押しによる多段変速操作の際、任意のギアで止めることが難しくなる。ただ、これについては変速スイッチを持っていきたいギアの位置に来るまで連打すれば問題無いため、私は初期設定の『とても速い』のまま使用している。
また、多段変速で一度に変わる段数を2~3段までに制限することも可能である。この機能を使えば、よりワイヤー式と同じ感覚で使用することもできる(多段変速の機能自体をオフにすることもできる)。実際に使ってみて、各自使いやすいようにカスタマイズすると良いだろう。
E-TUBEの設定画面。このように変速レスポンスや多段変速操作時の挙動をカスタマイズすることができる
4.総括
さて、ここまで長くなってしまったのでそろそろまとめに入ろう。個人的に採用するべきと考える用途毎の内容については下記の通り
・TRI/TTレース…ほぼ必須。ベースバー・エアロバーのどちらを握っても変速できるメリットは大きい
・ロードレース…TRI/TTより優先度は多少下がるが、メリットがデメリットを大きく上回る
・ブルベ/サイクリング…現状の変速性能に不満が無ければ、採用するメリットは大きくない
・ロングキャンプツーリング…運用・コスト両面でデメリットがメリットを大きく上回る
繰り返しておくが、あくまでこれは私の個人的な感想である。結局のところは趣味である。自己満足のために機材を選択することもまた一興である。
また、ここ最近は新型DURA-ACEの噂も色々と出回ってきている。あくまで未確認情報ではあるが、もし仮に振動発電システムや(セミ)ワイヤレスシステム等が本当に採用された場合、上記に挙げたデメリットの大半が消滅し、ロングライド用途でも積極的にDi2を採用する理由が出来るかもしれない。楽しみに続報を待ちたいところだ。
特に今年はコロナ禍を筆頭に目まぐるしく社会情勢が変化した一年間であったが、
自転車関連における私事の最大のトピックとしては“電動コンポ”の導入である。
導入するに至った経緯については後ほどまとめるが、
個人的には『プロダクトとしては良いものであるが、私の使い方においては巷で絶賛されているほどの感動は無い』というのが正直な感想であることを、最初に述べておきたい。
その上で本記事が現在、電動コンポの導入について悩んでる方への一助になればと思う。
1.導入理由
私は自転車を5台所有しており、そのうちの1台がケーブル内装タイプのカーボンロードバイクである。で、以前からこのフレームのリア変速に対して不満というか、他のケーブル外装式の自転車と比較してどうにもストレスを感じていた。いくらケーブルの種類や組付けを見直したところで、ロー側に入るのが3テンポ程度遅れる→ケーブルの張りを強める→トップ側に入りづらくなる→張りを弱める→ロー側に…というループが解消できなかったのである。当然、他の自転車は全く問題無くスパスパと心地よく変速してくれる。
最初はエンドの曲がりやプーリーの摩耗を疑い交換したものの改善が見られず。勿論、かくいう私も自転車の整備や組付けに関しては全くのド素人。ならばとシフトケーブルの交換を腕に定評のあるショップに依頼し事態の改善を試みたのであるが、結果は変わらずであった。再度そのショップに行った際に相談したところ、「ケーブル内装フレーム、特にチェーンステーの真後ろからケーブルが飛び出すタイプのフレームでシャドータイプのRDを使用すると、アールがキツくなりすぎるため外装式に比べると変速性能が落ちてしまう可能性がある」との見解であった。となると、残る手段は電動化しかない。
しかしロードバイク業界は既にディスクブレーキへ移行しつつあるタイミング。これ以上リムブレーキ車にあまり投資をするつもりは無かったために我慢して乗り続けようかとも思っていたのだが、やはりリア変速に対するストレスは日に日に増すばかり。そろそろDURA-ACEを筆頭にSHIMANOコンポのモデルチェンジの時期がきているということもあって大変に悩んだが、誕生日プレゼントであったり未使用品を格安で譲っていただいたりと沢山の方のご協力もあり、結局導入することと相成った。皆様には改めてお礼を申し上げたい。ありがとうございました。
リアエンドの真後ろからケーブルが出てくるフレームとシャドーリアディレイラーを組み合わせると、アウターケーブルのRがどうしてもキツくなる
さて、Di2化を果たしてから600kmブルベや200km山岳ブルベにも投入し、走行距離が1000kmを超えたので以下にメリットとデメリットを挙げていくこととする。なお、私自身レースには参加しておらず、専らブルベ等のロングライドや週末ライドを楽しむ一般的なサイクリストである。そのため、表彰台を狙う本格的なレース志向の方々とは感想が大きく異なる可能性が極めて高い点については、留意していただきたい。
2.メリット
【1】変速性能が改善された
導入に至った最大の動機である変速性能の改善であるが、これは目論見通り達成することができた。他に所有しているワイヤー外装式の自転車と同様の、スパスパと変速が決まる心地良いフィーリングを手に入れることができ、ストレスから解放されることとなった。まさにケーブルの取り回しに左右されないフライバイワイヤ方式の面目躍如といったところ。またこれは同時に、『組付け時に腕やノウハウが要求されるワイヤー式とは違い、誰でもほぼ同じ変速精度が出せる』ということでもある(ディレイラー本体の組付け等完全に0ではないが、その点はワイヤー式も同じである)。
【2】サイクルコンピューターとの同期
去年のブログでも記事にした通り、現在私はGARMINのEDGE530をメインサイコンとして運用している。コンポを電動化する際に“ワイヤレスユニット”を導入することにより、
①現在使用しているギアの組み合わせを表示
②レバー上部の隠しスイッチを使用して表示画面の変更やラップのスタート/ストップ操作
③変速回数の記録
を行うことが可能となった。特に②は是非とも使いたい機能であったため、当初より隠しスイッチが搭載されていないST-6770とST-6870は選択肢から外していた。物理キーであるEDGE530の場合、冬場の厚めのグローブ着用時でも特に操作に不便は感じていなかったが、ダンシング中に手軽に表示画面が変更可能になったことはやはり便利である。タッチスクリーン式のEDGE800/1000シリーズを使用されている方であれば冬場の厚手のグローブ着用時や、雨天時でスクリーンロック機能をオンにしているシチュエーションなど、よりメリットが大きくなると思われる。
ちなみにEDGE530と同期させると、ギアがアウター×トップorインナー×ローに入ると、『ピッ』とそのことを知らせる効果音が鳴る。更に“これ以上は重く/軽くできない”操作を行おうとすると、同様に『ピッ』音が鳴る。参考までに。
なお、SHIMANOのマニュアルには「ワイヤレスユニットは外に出ているブレーキケーブルに沿わせること」という旨の記載があるが、実際はダウンチューブ等のフレームに内装しても問題無く使用できている。外観もスッキリする上に(まず無いと思われるが)浸水等のトラブルを考慮すると、特にデメリットも見当たらないため内装してしまった方が良いだろう。
レバー上部の隠しスイッチ。ここにシフトアップ/ダウンの変速操作を割り当てる事も可能
操作アクションと機能の割り当てはサイコン側で設定する。左右それぞれのレバーについて設定可能だ
GUTTI@BRM1128けいはんな200@on_guttiSTIレバーでガミンミを操作するの図 https://t.co/sTYV8dvsNC
2020/12/12 21:21:13
【3】リリースレバーの空打ちが発生しなくなる
ワイヤー式のSTIレバーの場合、時折リリースレバーの空打ち(リリースレバーを押しても変速動作が発生しない)が発生していたが、電動コンポの場合は当然このトラブルは発生しない。ロングライドやサイクリング等であれば再度変速操作を行えば済む話であるが、レース中のゴールスプリント直前でこれが発生すると、レース結果に重篤な影響を及ぼす可能性がある。
【4】ハンドル周りが軽くなる
Di2化を図る以前に使用していたSTIレバーはST-9001(365g)であるが、ST-9070(237g)への変更に伴い約130gハンドル周りから重量が削減されることとなった。流石にこれだけの重量差があるとダンシングでハンドルを振る際の挙動が大きく変わることになる。また、ハンドルとフレームを繋ぐワイヤーがブレーキケーブル1本のみとなるため(ワイヤー変速式の場合、シフトケーブルが更に2本追加)、ダウンヒルの際のコーナリングでも狙ったラインをトレースしやすくなった(というより、これが本来意図されたフレームの性能なのであろう)。
油圧ディスクブレーキシステムのロードバイクの場合、電動レバーの形状はリムブレーキ用のレバーとほぼ同一の非常にコンパクトな形状となる上、重量もワイヤー式より約140gの軽量化も図れるため、積極的に電動化を検討する価値はある。
【5】シフトインナーケーブルにまつわるトラブルからの解放
SHIMANO製STIレバーの場合、特に9000世代以降の製品は“レバー内部でシフトインナーケーブルが断線する”というトラブルをよく目にするようになった。実際、私も一度これが原因でブルベをDNFしている。言ってしまえば爆弾のようなものである。私の場合はリア変速を人より多用しがちなライドスタイルであるため(約2000回/100km)、2000kmおきに交換していた。
しかし電動化を行えば、この手のトラブルに見舞われる心配は無くなる。キャノンボールといった絶対に失敗したくない場面でも安心して持ち出せる意義は大きい。
【6】セッティングの再現性の高さ
ワイヤレスユニットを用いてスマホと同期させていれば、SHIMANOがリリースしている無料アプリ『E-tube』を利用することが可能である。このアプリケーションは各パーツのファームアップデートや変速動作の微調整等がPCを用いずとも手軽に行えるため、大変便利である。
特に前後ディレイラーのセッティング(機械式で表現するところの“ワイヤーの張り加減”)を数字として視覚的に確認可能であるため、一度セッティングを行えばその数字をスクショに撮る等でセーブしておくことで、次回の部品交換時等でも再現が容易となる。様子を見ながらワイヤーの張り具合を調整するというアナログなワイヤー式との差はここにもある。
専用アプリ“E-TUBE”の設定画面。このように前後ディレイラーの調整具合を数値として管理できる
【7】変速スイッチの増設
私は特に使用していないが、“スプリンタースイッチ”と“サテライトスイッチ”と呼ばれる増設用変速スイッチのオプションも用意されている。これらを使えばスプリント時等で下ハンドルを握った時により変速操作が行い易くなったり、ハンドル上面やTT/TRIバイクのブルホーンバーの先端を握ったままの状態でも変速操作が可能となる。特にトライアスロンレースに積極的に参加している知人いわく「レース戦略が大きく変わるため、Di2の採用はほぼ必須」とのことである。
【8】オートトリム機能
チェーンがFDに接触しないようにFDの位置を微調整するトリム調整操作がDi2では不要となる。リアのギア位置に応じてFDの位置が勝手に移動するためである。個人的には今までこのトリム操作が煩わしいと感じたことは無いし、Di2導入後も「トリム操作をしなくて済むと、こんなにストレスフリーなんだ!」等と思ったことは無い。しかし、「走りに集中できるようになった」と感じた人の話は多く聞く上、操作しなくて済むのであればそれに越したことは無いのは間違いない。
以上が導入して実感したメリットである。しかしワイヤー式の上位互換と思われがちな電動コンポであるが、実は無視できないデメリットもそれなりに多い。以下よりそれらデメリットについて述べていく。
2.デメリット
【1】導入コストの高さ
導入にあたっての費用がとにかく高い。なんと言ってもこれに尽きる。前後変速機の価格の高さはともかく、それに加えて以下の小物類の追加購入が発生する。そしてそれらがいちいち高いのだ。
「ケーブルの交換費用が無くなるのであれば、いつか元は取れるのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれないが、2020年12月現在、R8000シリーズのワイヤー式と電動式の価格差はコンポ代3万円+上記小物代5万円で計約8万円。R9100の場合はコンポ代だけで約92,000円の差となる。
一方で私の自転車の場合、年間にかかるシフトケーブルの価格(インナーケーブルを半年に1回、アウターケーブルを年に1回交換すると仮定した場合)はざっくり約5,000円。仮に組付けをショップに依頼するとして工賃込みで費用が約10,000円だとすると、逆転するのに8年必要という計算になる(DURA-ACEの場合は14年)。
このレベルであれば先にディレイラーやレバーそのものが故障する可能性が高そうであるが、あくまでこれは年間5000~6000km程度の私の自転車の場合。仮にこれが年間1~20000km以上走るとなると、また話は変わってくる
【2】バッテリー
電気部品ということで、言うまでもなくバッテリー管理が必要となる。公称ランライムは満充電で1000~1200kmとなっており、私の使用方法ではほぼこの通りとなる(殆ど変速操作をしない人は倍以上保つとのことだが…
また、1000km以上のブルベへの参加や日本一周のような長期間のツーリングの際には給電も課題となる。ジャンクションAから給電を行うわけであるが、この給電ポートは一般的なmicro・miniUSBやType-Cといった汎用品ではなく、専用の端子形状となっている(専用充電器にmicroUSBを接続する)。
このため、持ち運ぶ荷物が増えるといったデメリットも発生する。
ジャンクションAの給電口。専用の形状だ
ドングルも兼ねる専用充電器。これに更にmicri USBを接続して充電を行う
これらのトラブルを未然に防ぐため、正確なバッテリー残量を①対応するサイコンに表示させる②ディスプレイユニットを使用する…のどちらかの方法で確認することとなるが、①を選択する場合はサイコンの表示項目を一つ潰すことになる。ハンドルのスペースに余裕があったり形状に問題が無いのであれば、極力ディスプレイユニットを採用したい(費用もジャンクションA+ワイヤレスユニットの組み合わせより安く抑えることが可能)。
私のEDGE530のメイン画面。『Di2バッテリー残量』の箇所は導入前『獲得標高』を表示させていた
【3】電装品のトラブル
【2】に引き続いて爆弾ネタその2である。私はまだ見舞われたことは無いが、バッテリー切れ以外にも何らかの電装品のトラブル(特にジャンクション周り)が発生し、動作しなくなるケースもあると聞く。ワイヤー式システムであれば、ディレイラーの可動域の調整やタイラップ・針金等を駆使して任意の軽めのギアで走行を継続することもやってできなくはないが、電動コンポの場合はそういった対処も基本的には不可能である。また、自転車屋に駆け込むことさえできれば、ワイヤー式の場合は部品の在庫が手に入る可能性が高く、ケーブルの内装・外装問わず比較的速やかに復旧できることに対し、電動コンポの場合は(特にケーブル内装式)そうはいかない可能性が高い。特にケーブル内装式で圧入式BBを採用しているフレームの場合、仮にショップに駆け込んでもBBの在庫が無ければ詰みである(一度取り外したBBの再利用は基本的に不可のため)。少しでも走行継続確率を上げるためにもTOKENやWISHBONEといったスレッドフィットタイプBBを採用しておくことを強く推奨しておく。
私が使用しているTOKEN“NINJA”。WISHBONEなども有名だ
【4】インナー×トップから2段は使用不可(アウター52以下の場合)
Di2特有の問題点というか仕様なのであるが、
・アウターの歯数設定を52T以下にする
・バッテリーのファームウェアを最新版にする
の両条件を満たすと、インナー×トップorトップから2段目というギアの組み合わせは使用不可となっている。例えば、アウター×トップでダウンヒル中に急勾配の登り返しに差し掛かったタイミングで、“まずフロントをインナーに落としてから徐々にリアのギアを下げていく”ということができない。フロント側のシフトダウン操作を行うとフロント側のギアは変わらず、リアのギアが2段分ローギアに移動する。この場合については単にリアの方から先にギアを下げていけば済む話ではあるが、既にインナーに入っている状態でトップ側2段目にギアを上げようとした場合、何も起こらないのである。先にフロントギアをアウターに上げておく必要性がある。このように融通が利かないという点では明確にマイナスである。
以上がワイヤー変速システムと比較した際のデメリットである。
人や用途によってはどれも大した問題にならない項目かもしれないが、検討材料として欲しい。
以降は私にとってメリットともデメリットとも思わなかった点について挙げていく。
3.その他
【1】シンクロシフト
ここでは詳しく解説はしないが、Di2にはギアのつながりを有効に使用することが可能な『シンクロシフト』と『セミシンクロシフト」という2モードが搭載されている。私も最初は便利そうだという理由で設定していたが、普段走行しているようなヒルクライムコースやアップダウンが連続するようなシチュエーションでは逆に不便に感じたため、すぐに機能をオフにしてしまった。私の周りでも同様に設定を切っている人が多いが、やはり便利だということで利用している人もそれなりにいる。
走るコースやシチュエーションにあわせて積極的に切替えて運用することができれば、便利な機能なのかもしれない。
【2】配線作業
Di2対応のケーブル内装式フレームの配線についてであるが、結論から述べると「難易度・作業性共にワイヤー式と大差無し」というのが率直な感想であった。事前に「ワイヤーの交換作業より大変」「いや、ワイヤーより楽だ」という両方の意見を聞いていたが、個人的には大差無いというのが正直なところ。ただし、圧入式BBを採用しているフレームの場合、何らかの方法でBBを取り外す必要性があることは注意。この観点からも、やはりDi2の導入に際してはTOKENやWISH-BONEといったスレッドフィットタイプBBを用いることが望ましい。
なお、上記はあくまで“Di2対応のケーブル内装式フレーム”の場合である。そうではないケーブル外出し式の場合、各ケーブル長の選択がシビアになったり、配線作業やバッテリーの設置等の難易度がより高くなる可能性はある。
【3】軽い力で変速操作が可能
これも良く言われているファクターであるが、個人的には特にメリットとは思わなかった。というよりワイヤー式でも「変速レバーを操作するのは疲れるなぁ」だとか「流石に500kmも走ってきたら、変速するのも一苦労だぜ」などと思ったことが一度も無いのだ。手首が疲れるレベルで変速操作が重いようであれば、まずはきちんとしたショップにワイヤーの交換や調整を依頼するべきである。
ただし、これもあくまで私個人の実感ないしは使用方法においては、である。過酷なレースの終盤ともなってくると、また感想は変わってくるかもしれない。手の小さな方であれば、メインレバーを操作するにも苦労する…という話は聞く。いずれにせよ、電動化すればいわゆる“変速疲れ”を気にする必要が無くなるのは間違いない。
【4】変速具合の微調整
メリット【6】で挙げた内容とリンクするが、初導入時やRD・スプロケ等のパーツを変更、あるいは新フレームへの載せ替えなどをした場合、完璧にセッティングが行えていれば何も問題は無い。しかし、実際に外を走り出してみると微調整が必要になるケースは多い。この時、ワイヤー式であれば信号待ち等でディレイラーのアジャスターを弄ることで手軽に微調整が可能であるが、電動式だとそうはいかない。専用アプリのE-TUBEを起動・同期させるかジャンクションAを操作して調整モードにする必要があり、ワイヤー式に比べて大変手間がかかる。慣れれば乗車しながらの調整も可能とは聞くが、やはりワイヤー式ほど手軽に調整できないことは確かだ。
…と、これだけを書くと単にデメリットでしかないのだが、一方で電動式は“一度調整が済んでしまえば、基本的に再調整は不要”というメリットがある。ワイヤーの伸びに伴う再調整が不要となるためだ。そのため、「ここ大一番の本番で初投入!」ということは決してせず、必ず試走を行い事前確認・調整をしっかりしておくこと。(そもそもDi2に限らず、初物をいきなり実践投入するべきではない)
【5】変速スイッチ
最初は随所で「厚手のグローブをしていると、シフトアップとダウンのスイッチを区別することが難しくなりそう」という話をあちこちで聞いていたため私も懸念していたのであるが、これについては完全に杞憂であった。それぞれの変速スイッチの間には明確に段差が設けられており、真冬用のグローブ着用時でも押し間違えることはまず無い。心配は無用である。
シフトレバーはそれぞれの間に明確に段差が設けられている
【5】多段変速/変速速度の設定
これもDi2ならではの機能として、リアの変速速度を5段階で設定することが可能である。SHIMANOの公式からも説明がある通り、速度を上げれば変速時のレスポンスも良くなるが、変速スイッチの長押しによる多段変速操作の際、任意のギアで止めることが難しくなる。ただ、これについては変速スイッチを持っていきたいギアの位置に来るまで連打すれば問題無いため、私は初期設定の『とても速い』のまま使用している。
また、多段変速で一度に変わる段数を2~3段までに制限することも可能である。この機能を使えば、よりワイヤー式と同じ感覚で使用することもできる(多段変速の機能自体をオフにすることもできる)。実際に使ってみて、各自使いやすいようにカスタマイズすると良いだろう。
E-TUBEの設定画面。このように変速レスポンスや多段変速操作時の挙動をカスタマイズすることができる
4.総括
さて、ここまで長くなってしまったのでそろそろまとめに入ろう。個人的に採用するべきと考える用途毎の内容については下記の通り
・TRI/TTレース…ほぼ必須。ベースバー・エアロバーのどちらを握っても変速できるメリットは大きい
・ロードレース…TRI/TTより優先度は多少下がるが、メリットがデメリットを大きく上回る
・ブルベ/サイクリング…現状の変速性能に不満が無ければ、採用するメリットは大きくない
・ロングキャンプツーリング…運用・コスト両面でデメリットがメリットを大きく上回る
繰り返しておくが、あくまでこれは私の個人的な感想である。結局のところは趣味である。自己満足のために機材を選択することもまた一興である。
また、ここ最近は新型DURA-ACEの噂も色々と出回ってきている。あくまで未確認情報ではあるが、もし仮に振動発電システムや(セミ)ワイヤレスシステム等が本当に採用された場合、上記に挙げたデメリットの大半が消滅し、ロングライド用途でも積極的にDi2を採用する理由が出来るかもしれない。楽しみに続報を待ちたいところだ。