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PC12:Mortagne-au-Perche~PC13:Dreux
 むくり。寝過ごすことなくきっかり1時間後のAM3:40に起床する。明らかに健康で文化的な最低限度の生活を送れてるとは言い難い睡眠時間だが、ここは日本国憲法が適用されない異国のフランスである。しかたがない。もういい加減身体が受け付けなくなってしまったスローバーと羊羹とカルパスを吐き気を堪えながら無理矢理水で胃に流し込み、歯磨きと洗顔を済ませAM4:15にスタートを切る。残り約120km…いよいよ最後の朝である。
 もうすっかり見慣れた感のあるランタン・ルージュの一部となりながら闇夜の中を走っていく。相変わらずこの時間でも気温も湿度も高いが、一桁気温よりはマシだろう。というかいい加減尻と左手が痛いな…と考えながら一時間くらい走っていると、頭に靄がかかったように思考が鈍り出し始めてきた。これまでのキャノボ(東京大阪キャノンボール。大阪梅田~東京日本橋を24時間以内で走破するチャレンジのこと)やブルベの経験上、これは眠気ではなく低血糖による意識混濁だとすぐにわかったのでその場で脚を止め、補給食をやはり水で流し込むように無理矢理摂取する。もうスローバーは食べたくないお…。そしてそのまま数分間ほどボーっとしていると意識がクリアになったことがハッキリと分かったため、再びランブイエに向けて
数多くのゾンビと化した集団をパスしながら走り出す。すると10分もしないうちに私設エイドがあったため、ダメ押しとばかりにお菓子とコーヒーをいただく。朝の5時台という早朝にも関わらず本当にありがたい…。暖かいコーヒーが五臓六腑に染みるぜ…。ここで糖分とカフェインを十分に摂取することができたおかげで、無事に最後まで走り切ることができそうだ。
 そしてPBP中最後の夜明けを迎える。この時見た朝焼けは、きっと生涯忘れることはないだろう。
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 そして気付けばもうすっかりアップダウンは殆ど無くなっており、平坦路がメインの道のりとなっている。いよいよ終わりも近いな…と考えていたあたりでAM7:50、最終PCのDreuxに到着した。
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 クローズ時刻まで1時間40分も残しており、この先の残り43kmも平坦路。よほどクリティカルな事態に陥らない限りは認定完走は確実だろう…ということで、最後だし記念にPCのレストラン飯を食べてみることにした。
 レストランの行列に向かうとbaruさん・さめはるさん夫妻も並んでおり
よく会いますね、食事もご一緒させていただくことに。ラザニアとポテトベースの何だかよくわからない料理と謎スープ、メロンとオレンジジュースをトレイに乗せて会計に向かう。どうせ最後だしということで値札を見ずにレジへ直行というげんしけんの班目ムーブをしたものの、合計で16€…た、高い!高いがまぁ、ボリュームはかなりあった上に噂に聞いていたような味がマズいどころか、むしろかなり美味しかったのでヨシ!とする(後で知ったのだが、ここDreuxのレストランは全体を通して屈指の美味しさらしい。最後の最後で運がよかった)。
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 そしてこの時、baruさんの口からMortagne-au-Percheのシャワー脱衣室で、はまいぬ氏が盗難被害に遭っていたことを知る。そんな最終局面で他の参加者の足を引っ張る輩がいることに呆れると同時に、一歩間違えていたら自分が盗難被害に遭っていた可能性も十分にあったことに戦慄した。しかし考えてもみれば、確かにPCのシャワールームにおいて防犯セキュリティという概念は絶無である(過去には仮眠所での就寝中にパスポートも含めて全財産持って行かれたという人も…)。受付スタッフに頼んで貴重品だけでも預かっててもらうか、それが不可能であればチャック付のジップロックや衣類圧縮袋に入れた上でシャワーを一緒に浴びるかくらいしか、確実に盗難を防ぐ術は無いように思える…。
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本人転載許可済

 幸いにもパスポートや現金・クレジットカードの類は無事だったため走行自体は継続できているとのことだったので、とりあえずその点については安堵しつつ、AM8:30にゴールのRambouilletに向けて走り出した。

PC13:Dreux~GOAL:Rambouillet
  貯金は一時間、要求されるグロス平均速度は約9km/h、左の痛みは強まっているがレバー操作ができないほどには至っていない。40分間も休息していたためサドルに尻を乗せると激痛が走るが、それも5kmほど我慢して乗っていればすぐに消える。この区間は平坦路ということもあり懸念事項はもはや何も無い。淡々とペダルを回しゴールに向かっていく。
 
Rambouilletまで残り15km、道中に残り距離を示す看板が目に入った。いよいよこの旅も終わる。途端、様々な思い出や感情が胸に去来した。18年と4ヶ月前の春、「何となく楽そうだから」で入部した大学のサイクリング部。初めて購入したスポーツ自転車であるランドナー。仲間たちと沢山泣いて、沢山怒って、そして沢山笑ったあの日々。ポタリングやツーリング先で見た景色。青春18切符で本州のど真ん中から北海道へ行くのは大変だったな。毎週のように徹夜で朝まで誰かの自転車をメンテナンスしていたことも昨日のように思い出せる。「GUTTIさんって結局、グリス塗れの四年間でしたねw」とか言われたこと、今でも忘れてないからな…。あ、そうだ。卒業式の日や最後に静岡の家を引き払った時、駅まで後輩たちが見送ってきてくれた時は柄にもなく泣いたっけ。本当にあっという間の、まるでおとぎ話みたいな4年間だったな。
 残り10km。結局、サイクリング部を卒業してもずっと自転車に乗り続けている。社会人一年目の研修期間中に住んでいた岐阜県で下呂温泉や白川郷に一人で走りに行ったりして。縁も所縁も知り合いもいない九州に配属になった後も、三連休になるたびにフラフラあちこち走りに行って。糸島や虹ノ松原や九重方面もまた走ってみたいな。異動してきた自転車趣味の先輩と阿蘇周辺を走った時は流石にヘトヘトになったっけ。その翌週に「やっぱ軽い自転車が欲しい!」とか言ってカーボンロード買った気がする。学生時代に走った九州でのツーリングルートをトレースしたりもしたな。
 残り5km。東京に引っ越してからだったっけ。キャノボやブルベという存在を知ってそのあまりの世界観に驚嘆し、凄い人達がいるもんだと思ったりして。そしてそんな人達に憧れて、自分も参加するようになったのは。そこでもやっぱり色んな人達と出会い、色んな景色を見てきたな。まぁ、基本はしんどい思いばっかりしてたけど。キャノボなんて何なんだよあれ。何であんなしんどい事を3回も4回もやったんだろ…けど、楽しかったな。本当に楽しかったな。そしていつしかPBPも走ってみたいなとは漠然と思ってはいたものの、まさか本当にそんな日が来るとは思ってもみなかったなぁ。
 学校のマラソン大会でビリっけつでゴールした自分に「お前は20年後、自転車でフランスを1200km走ることになるぞ」と言ったらどんな顔するのかな?まぁ、信じないか。今でも正直夢じゃないかと思ってるし。
 歓声が聞こえる。アレがゴールゲートか。いよいよあの18年前、自転車と出会った日から続いた"旅"が終わる。自分がこんな形で『主役』になる日がくるなんて、自転車に乗ってなかったらきっと一生なかっただろうな。あぁ、もう良いか。こんな時くらいまた年甲斐もなく涙を流しても。今まで自転車で出会うことができた人達と過ごしてきた日々、丸ごと全部愛してるぜ!!


 
PBP2023:認定完走でゴール
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じかーい、じかい(ラストです)↓
PBP2023レポート⑨ : 凡脚週末ローディの戯言 (livedoor.blog)