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WP3:Saint-Nicolas-du-Pelem~PC5:CARHIX-PLOUGUER
 2:55。寝ホンから鳴り響くスマホからのアラームで、スタッフに起こされるより先に目が覚める。ざっと4時間くらいは寝られたか。ふえぇ…どう考えても不健康な睡眠時間だよぉ…。ブルベは身体に悪いよぉ…。というわけで「おはようございます」なのか「こんばんわ」なのかよくわからない時間に再始動。
 昨日と同じくやはり歯を磨いて朝食がてらスローバーとカルパスと羊羹をキメていると、何やら日本語の会話が聞こえる。「いやぁ、実は自分G組(17:30スタート)でして…。マジでヤバいんですよね~。まぁ、でも大丈夫大丈夫!間に合う間に合う!w」…いや、流石にこの時間にここにいちゃマズいでしょう。全部のPCが例年通り実質通過チェック(足切りタイムの設定が無いPCのこと。前回までのPBPは途中のPCでタイムオーバーしていても、ゴールタイムが間に合っていたら認定完走!という運用だった)であらんことを…などと考えながら、準備を進める。気温は14℃…流石にちょっと肌寒いな。というわけで春秋用の少しだけ厚手のグローブとハーフシューズカバーを装着する。時刻は3:30…かくいう自分も実は余裕は無い。1時間48分で32kmを走らなければ足切りタイムに引っ掛かるのだ。というわけで出発します、カァ…。
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 自分もランタン・ルージュの一部と化しながら、街灯も何も無い大草原のアップダウンを駆け抜ける。ドン引きするくらい真っ暗闇なので前照灯は2本共点けていたが、特にテクニカルなコーナリングは一切無い直線路なので、逆にそれだけで昼間とほぼ変わらないペースで走ることができた。お尻への負担を減らすため登りはダンシングでダラダラ、下りは下ハンドルを握り一気に加速という走り方で距離を詰めていく(ちなみにこのような走り方をしているのはおしなべて日本人だけの印象だった。普段のブルベで暗闇のダウンヒルに慣れているから?)。
 そして5:05、実に足切りタイムの13分前のギリギリの滑り込みという形で、PC5のCARHIX-PLOUGUERに到着した。いやー、焦った焦った。
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PC5:CARHIX-PLOUGUER~PC6:BREST
 
とりあえずここまで32kmしか走っていないため、スタンプ押印とトイレだけ済ませてさっさと離脱する。お次はいよいよ折り返し地点のBRESTである。
コース中の(たった350mではあるが)最高標高地点に向けて緩やかな登り基調の道を進んでいく。この道中では少しの間だけあおばジャージを着た、夫婦で参加されている方たちと少しお喋りしながら進んだ(きっかけはやはりブリだった)。
 最高標高地点に到着し写真を撮るためにスマホを取り出してみると、複数人からLINEやTwitterでコメントがきていた。あ、そうだ。俺今日誕生日だったわ。仮眠から目覚めてからあまり余裕が無かったため、ようやくここで気付いた次第である。このような夢にまで見た大舞台で誕生日を迎えられたこと、それ自体が何よりもバースデープレゼントである。そんな想いを抱き、様々な人達へ胸中で感謝を述べながら、ダウンヒルを開始する。周囲の人達に「Today is my birthday!」とアピールできるコミュ力など無い。
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 そういえばこの区間ではベロモービルの登坂性能とダウンヒル性能の極端すぎる差が面白かったのが印象的だった。リカンベントやタンデムもそうなのだが、これらのスペシャルバイク枠の自転車とは『登りで追い抜いて下りで凄い音を立てながら追い抜かれる』を繰り返しながら走る形となるのだ(17:15スタートのF組がこんな場所にいることは心配だが…)
 そうしてこれまでの田舎道とは打って変わって、それなりに栄えた街の中を通過することになる。そう、いよいよBRESTの街に入ったのだ。印象としては日本の地方の県庁所在地くらいか。自動車の交通量も増え、信号や一時停止もそこそこ見かけるようになる。にも関わらず、道幅いっぱいに広がって走行するのはいかがなものか?おかげで後ろから来る車の進行を完全に妨げる形となってしまっている。自転車やPBPに対する理解があるフランスの国民性か、道が開けるまでドライバーはみんな待ってくれていたが、個人的には流石にクラクション鳴らしても良いんじゃないかと思う…。
 そんなこんなで9:35にとうとう折り返し地点であるPC6に到着。経過時間は38時間35分と計画より30分早い到着である。ひとまず例によってスタンプ押印とトイレを済ませ、補給食を食べながらチェーンにオイルを挿していく。あ、ヤベ、勢いよく出過ぎて誤って後輪にオイルがかかってしまった…。空気入れも借りたかったし、メカニックブースまで拭き取ってもらうよう頼みに行くか…(料金は無料だった。メルシー)。ちなみにここで得た豆知識を一つ疲労しておくと、空気入れは『フロアポンプ』ではなく『タイヤプレッシャー』と言えば通じる。とりあえず前後共に23Cのタイヤに6.5barまで空気を入れ、シューズカバーと反射ベストを脱ぎ、グローブも夏用に変えたところで準備完了。10時20分にリスタートを切る。残り時間は50時間40分…まぁ、さすがにこれはもう勝ち確でしょ。勝ったなガハハ。また600kmもかけて来た道戻るの…?もうお腹いっぱいだよ…。
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PC6:BREST~PC7:CARHIX-PLOUGUER
 いよいよ後半戦のスタートである。そして前述した通り、私は今まで1000km以上のブルベに出走したことが無かったため、ここからは完全に未知の距離である。耐えてくれよ、俺の身体…!
 ひとまず様々な飲食店の誘惑を断ち切りながら街中を通り過ぎていくと、港町らしいフォトジェネックなスポットが視界に入ったのでパシャリ。まさか自転車に乗って大西洋を拝む日がくるとはね…人生ってホント、何があるかわかりませんね…。
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 そんな感慨に耽りながら走っていると、今度はすぐにまたPBP中の名所であるプルガステル橋が現れる。やはりここで写真を撮っている参加者達も多い。私もせっかくなのでここでもまた写真を撮る(危うくブリを忘れて置き去りにするところだったが、数百m走ったところですぐに気付いたことで事なきを得た)。
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 プルガステル橋を超えたところでイチゴを配っている人達がいたのでありがたく頂戴しつつ、また草原の中に戻っていく(果物特有の酸味が心地よく美味しかった)。そこから15km走った先のDaoulasという街でちょうどお昼時を迎えたため、目に入ったパン屋『Le Goff Fabien』でチョコデニッシュとクロワッサンと缶のOASISを購入(ついでにトイレも借りた)。うっま、何色パティエールだよ!?とあっと言う間にガツガツと食べ終わり、また走り始める。
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 時刻も12時を回ったということでジリジリも気温も上昇。やはり例によって温度計は30℃をマークしていた。こりゃ今日も高温環境との戦いになるな…っていうか誰だよブルターニュ地方は涼しいとか言った奴…と呪詛の言葉を心の中で繰り返しながら走っていると、あることに気付く。あれ?何か斜度キツくない?確かにこのPC6~PC7の区間は93kmで獲得標高1190mという、かなりガッツリとした峠を越えるのと同じレイアウトであることは知っていたのだが、精々これまでと同様最大5%くらいの緩い登坂とダウンヒルを繰り返す感じだろうと判断していた。しかし、サイコンの勾配計は7~9%の間をずっと行ったり来たりしている。というか、車種問わず押し歩いて登ってる人沢山いますね…。眼前にはパンチの効いた勾配の坂、頭上には容赦なく降り注ぐ太陽光、そして我が身は630kmを自転車で走ってきた疲労の身体…。経験上、ここで強度を上げて無理矢理走ると、間違いなく熱中症によるダウンが待ち構えていることはわかったため、適宜水を被りながら強度も上げずにやり過ごして走るモードに切り替える。また、ここは完全に新規ルートであるせいか、私設エイドの数もこれまでの道中より明らかに少なく、水も無暗に使うとマズい。逆に水を配ってくれている人がいたら率先して給水だけでなく、頭~背中にかけてもらう。もう完全に日本の夏なんよ…。そしてこんな区間をグロス19km/hで走る前提で計画を立てた過去の自分を呪いつつ、ゆっくりと前に進んでいく。しかしあまりにも暑い。そして少し眠気も感じる。だったらこんな地獄みたいな高温環境の中での走行時間を少しでも減らすために、夜寝る時間を削る形で今ここで昼寝をした方が良いんじゃないか?…と考えたところでちょうど木陰のある芝生が目の前に出現したので、そこで20分ほど仮眠休憩を取ることにした。「事故って倒れたとかではなく、あくまで休憩しているだけですよ」とアピールするために、枕代わりのナップザックをサドルバッグから取り出し頭の下に敷く。スマホも20分後に鳴るようアラームをセット。うーん、虫の羽音が五月蠅いな…っていうかこれ、アブに刺されません?と少々不安になりつつ目を瞑る。(なお、繰り返すが公道上でのこういった仮眠は本来褒められるものではなく、PBP中でもなければ警察沙汰になってもおかしくないことは、改めて強調しておく。ましてや日本国内では決してやるべきではない。最低でも公園のベンチや道の駅の休憩所を利用するべきであろう。)
 ピロンピロンピロンピロン♪…きっかり20分後、かけていたアラームが鳴ったので即座に起き上がる。こんな短い時間だが、頭の中が驚くほどクリアになったことがわかる。走り始めても脚の方もかなりしっかり回せるようになっている。気温は相変わらず灼熱の様相を呈しているので調子に乗って踏むとヤバいが…ひとまずえっちらおっちらと走り始める。これは少しでもテンションをアゲていかないとヤバいな…というわけで音楽スピーカーの電源を入れる。道中でブリを運びながらアニソンを垂れ流す東洋人のおっさんがいたら、どうも私です。ちなみにT.M.Revolutionの『Meteor』が流れている時に西洋人から「GUNDAM song?」と聞かれたことには驚いた。とりあえず「That's right!」と返しておく。海外でのガンダム人気ってガチなんだな…と謎の感動を覚える。
 そしてBRESTから50kmほどの距離にあるPleyben(プレバンと読むのかな?プレミアムバンダイは関係無い)という街でシークレットPCが現れる。何もこんな厳しい区間に設置しなくても…運営はサドなのかしらん?とか益体も無い事を考えつつ、ブルベカードにスタンプを押してもらいトイレを済ませ、CARHIX-PLOUGUERを目指す。
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 相変わらず高気温・高勾配という地獄みたいな道のりを乗り越え、とうとうCARHIX-PLOUGUERまで戻ってくることができた。そしてPCの入り口付近に…ありました
みんな大好きマクドナルドです。
 この時点で計画より1時間ほど遅れていたものの、クローズ時刻までは3時間近く余裕があったため、腹ごなしとトイレをここで済ませるために立ち寄ることにする。何より「本当にビッグマックの味は世界共通なのか?」を確認したいという欲求が強かった。…同じことを考えているのだろうか、私の他に何人もランドヌール達がいたのには思わず笑ってしまった。
 とりあえずまずはトイレを済ませた後に(すぐに入れた上にやはり綺麗だった)、注文ボードで日本でもお馴染みのビッグマックセットを頼む。…が、何故かクレカでの決済がうまくいかず(タッチ決済対応じゃないと駄目っぽい?)、結局レジで会計をするために無駄に時間を消費してしまった。そして席につき待つこと数分。注文したビッグマックセットが運ばれてきた。ポテトはプラケースに入れられており塩っけはかなり薄味と、少々日本とは勝手が違うなと感じたが、ビッグマックの方は完全に一致である。世界規模のチェーンって本当に凄いですね…おみそれしました。(どうでもいいが、フランス人も我々関西人と同様に、マクドナルドは『マクド』と略す)
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 パパッと平らげPCに向かい、スタンプカードに証跡を押印してもらう。ボトルに給水を行い水を頭から被り、17:20と計画表より1時間20分遅れてではあるが、早々にPCを離脱した。まだしばらく灼熱との戦いは続きそうである…。
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PC7:CARHIX-PLOUGUER~WP4:Gouarec
 
ようやく地獄みたいな斜度の区間を脱し、また3%前後の登坂を繰り返していく。しかしこのフランスとかいう国、本当に平坦が無いな。『少ない』とかではなく本当に『存在しない』のである。脅しでも何でもなく「自分、坂は大嫌いだからSR600には絶対に出ないんですよ~」みたいな人は多分完走はできないんじゃないかな…。途中、絵に描いたような『ザ・ヨーロッパ!』みたいな街並みの写真を撮ったことは覚えているのだが…この区間、いやに目についたのはいわゆる立ちションである。PC間の距離が離れている区間だとか、深夜早朝で店も何も開いていないという状況なら一万歩くらい譲ってわからなくもないが、そうでもないこの区間・時間帯でそれをする理由って一体何なんだろう?「立ちションはフランスの文化」みたいな言葉もあるらしいが、ちょいとスマホで調べたら公衆トイレや高確率でトイレを貸してくれそうなスーパー、飲食店、教会の位置などすぐにわかるであろう。というか普通に犯罪である(フランス刑法の条文を調べても、やはり場所を問わず罰金刑である)。教えはどうなってんだ教えは。今後PBPに参加される方で、もし「立ちションは時短テクニック」みたいなアドバイス(笑)を聞いたとしても決して真に受けるべきではない、と考える(当たり前だが、日本国内でも同様に論外である)。個人的に言わせていただくなら、立ちションはただの準備不足であり恥ずべき行為である
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 そうしてWP4のGouarecに18:55に到着。まだ日は高く気温は31℃をマーク。とりあえずまたトイレ・給水・水浴びを済ませる。そして今日はここから110km先のWP5:Quedillacで仮眠予定であったが、ある一つの考えが頭をもたげる。

あれ?これもうあと110kmも走るのキツくね?


WP4:Gouarec~PC8:LOUDEAC
 
とりあえず19:10にWPを出立する。この時点で計画からの遅れはきっかり1時間。貯金としては2時間30分だが、このままのペースだとまとまった睡眠時間を確保することは厳しい気がする。まぁ、いいか。
とりあえず今日は次のLOUDEACで終わりにするかQuedillacで終わりにするかは、LOUDEACでシャワーを浴びながら考えよう。
 そんなことを考えながら時折現れる急勾配を越えていく。うーん、左手が痺れてきつつあるな。化粧用のパフを掌に仕込んでいるが、やはり限度があるか…。斜度が緩い登りでは極力左手に負担をかけないように走っていると、そろそろ日没というタイミングでちょうどどこかの街の墓地が現れる。個人的に異国の墓地を見学するのは好きだ。別にサイコパス不謹慎な理由ではなく、お墓はその国の宗教観が強く出るため単純に興味深いのだ。そういうわけで柵越しに見学をしつつ反射ベストを着込み、前後ライトとサイコンのバックライトを点灯させる。この時間帯にもなるとやはり急激に気温も下がり、20℃程度となる。その点ではすこぶる走りやすくはなってくるのだが、左手の痺れが辛い上にここまで斜度が厳しい区間と高温環境を走破してきたのだ。流石に脚が売り切れるのも時間の問題というか、もう既に120Wを出すことも正直辛い。
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 そうして21:45、実に350kmぶりにLOUDEACに戻ってきた。往路と同じ場所に駐輪し、これまた往路と同様のタスクをこなしていく。ただ、今日は既に気温が下がっている時間帯のおかげで、脱衣所の不快指数が非常に低かったのは良かった。
 そしてここで左手に異変を感じる。中指と人差し指を伸ばすと一瞬間接を曲げれなくなった。本当に一瞬のことでありすぐに元に戻ったが…シャワーを浴びて新しいウェアに着替えると、すっかり糸が切れてしまったこと、これくらいの気温であれば、空調設備が無くあんまり質が良いとは言えないらしいここの仮眠所でも普通にぐっすり眠れそうであること、計画より50分も遅れていることもあり、少しでも時間効率を追求するとやはりこのまま
LOUDEACで寝た方が良いだろう…と判断し、仮眠受付に向かうこととした。
 え~っと、次の足切りタイムがあるのは85km先のTINTENIACか…確かこの先はそんなに厳しくないどころか下り基調になるから、グロス20km/h=4時間くらいで走破することは十分に可能だろう。クローズ時刻が8:45ということは…4時半にここを出発すれば良いか…と、ここまで計算していたら丁度自分の順番が回ってきたので、起床希望時刻を4時と伝え、支払いを済ませる。この時の時刻は23:45。まぁ、昼寝もしたし4時間ちょいも寝れたら上等だろう…と考えたところで自分が使うベッドに案内される。
ちなみに参考までに、中の様子は

・4人分の簡易ベッドが1組となるように、ピッタリくっつくように配置されている
・薄手のブランケットが1枚
・冷暖房の空調は無し
・起床希望時刻毎に案内される区画が分けられている

といった塩梅であった。なるほど、これなら確かに一桁気温なら寒くて寝てられないのも頷けるし、そもそもこれ、足元に誰かいたら蹴り飛ばしちゃいませんかね…?と不安になったものの、極力周りに誰も使っていない区画を案内するようにしてくれているらしく、一番端っこで他に誰もいない場所を案内していただいた。そのおかげかイビキはそこまでうるさいとは感じなかったが、念のためこれまた寝ホンを耳に突っ込み、寝入ることにする。
FullSizeRender
15さんのTwitter投稿より(本人より転載許可済)


 仮眠場所を前倒しにすることで、当初予定していた明日の走行距離が260km→320kmに伸びることになってしまったが…まぁ、そこは明日の自分に頑張ってもらうことにしよう。おやすみなさい。

じかーい、じかい↓
PBP2023レポート⑦ : 凡脚週末ローディの戯言 (livedoor.blog)